2014/09/23

『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』

今週は、経済思想家の山口揚平さんをお迎えして羽ラジ的貨幣論をお届けします。

〜 山口揚平さん プロフィール 〜
大手コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業。
経済思想家。起業家。ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社代表取締役。
現在、東京大学大学院生として専門の貨幣論を研究をしながら執筆、大学講師、講演など精力的に活動なさっています。
最近ではロボットによる月面探査に挑戦する、日本初の民間宇宙開発チーム『ハクト』に財務担当として参加。
ますます今後の活動から目が離せない方です。



アートとビジネスを繫ぐもの



モトカ:

 なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』というタイトルは計算されていますね。タイトル自体が素晴らしいコピーになっています。


山口:
 貨幣論はずっと研究していて、僕の友達で『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の担当者だった加藤さんっていうヒットメーカーがいるんですけど、彼が「これはいい本なのでタイトルを練りましょう」って言ってくれて、それでこういうタイトルになってんです。
 でも芸術の本だと思って買われた方が、貨幣論の本だったから騙された的なコメントがアマゾンとかにあったりする。(笑)


モトカ:
 私はこのタイトルにはどんな人に読んでもらいたいかっていうことも含まれていると思ったんですけどねぇ。
 ゴッホやピカソはアーティストですから、これから世に出ようとしている若きアーティストたちに向けてのマネタイズ指南の本だ、って私はピンと来たんですね。



山口:
 本当にそこが21世紀の論点だと思っているんです。
 いわゆる「アートの世界」と「ビジネスの世界」があって、「アートの世界」は無理数、要するに分解出来ない主観的な、非言語の、イメージの世界ですよね。「ビジネスの世界」は整数、分解して理解出来て、言語化出来る客観の世界。二つの世界を繋ぐには「デザイン」ということが鍵になっていて、一番難しい所だと思うんです。 
 みんな主観の世界で好きなことをやって生きて行きたいんですよね、それは自分だけが分かる世界で非経済。そして客観の世界は誰もが分かる数字と論理の、言葉で理解できる世界。ここはコミュニケーションが出来る世界なので、両方をどう繋げるか、本当に繋げられるのかっていうのが、今日お話する貨幣論でも一番難しいんですよね。



「お金」という言語



モトカ:
 著書では「お金のピラミッド」という図で示してらっしゃいます。「使命が転じて価値となり、価値が変じてお金になる」と。
 これはアーティストに限らず、自分なりの表現をしていくにあたっての内的衝動として「使命」にフォーカスせよという、とても勇気づけられる提案ですね。


山口:
 経済学の歴史を追っていくと16世紀カルヴァン派に遡って、プロテスタンティズムの倫理が資本主義の精神に引き継がれていく考え方なんです。
 もともと人とは「神の触媒」であり「透明なメディア」である。神の魂の意図を顕在化させるためのメディアとして自分を見てゆくんです。そうすると、物質の最終形として最もヴィヴィッドな形が「お金」なんですよ。お金っていうのは顕在化された物質の王様。「顕在化」っていうのは誰もが分かるってことなんです。  
 じゃあ「お金ってなんですか?」っていうと、お金は「価値」と「信用」を数字にしたものなんです。もっと単純に言ったら「数字」なんですね。
 じゃあ数字って何かというと、世界80億人の誰もが出来る「言語」なんですよ。 


リエ:
 言語なんですか! 


山口:
 最強言語なんです。誰もが理解できる言語。
 だから資本主義が共産主義に勝ったのは当然で、世界が一つになるには、誰もが理解できる数字=お金で「コミュニケーション」しようということになったんです。お金でのコミュニケーションは、より多くの人とコミュニケーション出来る。100万円は100万円ですから、誤解が発生しない。一番摩擦がないんです。
 だから男女の別れは最後お金で決着付けるわけですよねw


リエ:
 あははは!!!なるほど!


山口:
 ただし、お金っていう言語は「ローコンテクスト」と言って物語を伝えることが難しいんですね。例えば100万円あったととして、その100万円がどういう風に出来たのか?東北の復興で全部流された漁業組合がホタテの栽培を3年かけてやり抜いて手にした100万円と、ちょっと上場株を買って3日で上がった100万円と、そこにはストーリー・コンテクストに違いがある。そう言う意味で数字というのは全くコンテクストを持てない言語なんです。これが資本主義の一番の弊害なんですね。
 よく格差が弊害だと言っていますが実はそうではなくて、コンテクストをもうぶった切るときにお金を使う訳ですよ。いやこれは、本当に大事な事なんですよw 
 ビジネスって結局は早く回して、お金を作っていく訳でしょう?そういう時に、社員1万人の会社があったとしたら1万人の人々の想いをもとにやっていたら前に進まない。だからお給料っていう仕組みがあるんですね。ローコンテクストを使ってお金で回そうという訳なんです。



物語を売る



モトカ:
 お金はコミュニケーションツールであるということを書かれていますね。お金を媒体とした交換の中に「物語」を持ち込もう、と。 


山口:
 そうですね。お金はアミノ酸と一緒なので、何か別のものと結合しないと「価値」が生まれないと考えています。


モトカ:
 ピカソは新作が出来ると画商を何人も呼んで新作を見せながらそのストーリーを語る、というエピソードは面白いですね。


山口:
 そうそう。ピカソはまず絵をカバーで覆ったまま3時間だらだらとしゃべるんです、先に。絵を見せないで。まぁ、なんと言うか絵がうまい以上のビジネスの才能、コミュニケーションの才能があったわけですね。で、こういう物語で、こんな背景があって…としゃべった後に、おもむろにバサーーと覆いを取って絵を見せる。 
 そこには画商がいっぱい来ていて、「あいつが買うなら、俺も買う」と競わせる。するとどんどん絵の値段が上がる。値段が上がると「価値」が高いように見えるのでますます値段が上がる。

 

モトカ:
 要するにセルフプロデュースということでしょうか。


山口:
 そうですね。ピカソには画商が必要なかった。アトリエで売るのが一番「物語」を伝えられますからね。
 プロダクトじゃなくてプロセスを売るっていうのは、21世紀に重要なことです。物ではなくて物語を、プロダクトじゃなくてプロセスを売る。


モトカ:
 ピカソのエピソードでもう一つ面白いなと思ったのが、日常の買い物を全て小切手で支払ったとか。


山口:
 そうなんです。ピカソは自分に名声が有ることを知っていた。だから例えば乾物屋の親父でさえもピカソを知っている。
 小切手は銀行に持っていくとお金に換えられるんですが、ピカソのサインが入っている小切手だから銀行に持っていって変えるよりも家に飾っておこうと思う訳ですね。そうすると、ピカソとしては銀行に小切手が持込まれないから預金は引き落とされない。ってことはタダで手に入るということです。
 これは「評価経済」と言われていることなんです。マネタイズをしないでお金を手に入れる方法ですよね。要するにお金を使わないんですよ。実は「株」って評価経済なんです。株価が上がったり下がったりというのは、会社の「人気」が上がったり下がったりしているのを「価値」と言っている。
 いま僕らはfacebookで繋がってしまっていたり、食べログがあったり、つまり上場しているということなんです。『食べログ』ならぬ『人ログ』が出来ているんですね。僕なんか会う前にすぐ検索されてしまう訳ですよ。
 そうそう、google検索でサポート検索の言葉が出てくるじゃない? あれが怖くてさ(笑) あのgoogle先生に逆らったら生きていけない訳ですよ。もし離婚とかしようものなら「ヤマグチヨウヘイ 離婚」とかずっと出てくる訳w だから結婚出来ないのw



「お金」についての3ヶ条


モトカ:
 ピカソみたいに有名ではない私たちが、小切手にサインしただけで「価値」を生むようになるにはどうしたら良いと思いますか?


山口:
 僕も「アーティストのためのビジネスモデル講座」っていうのをやっているんですけど、今日もここまでに3つのことを言っています。
 1つ目は、物でなくて物語を。
 ピカソがやったようにプロセスを見せて背景を売る。例えばクラウドファンディングだって、物語にはお金を払って物は買わない。だからアーティストも、自分がなぜそれを描くのか原体験を分かりやすくストーリーにして説明していくということがとても重要。就活したくないって言うけれど、原点の棚卸というのをしなければならない。そのストーリーを分かち合いましょうということなんですね。ディズニーランドなどが良い例ですね。  

 2つ目は、お金をやっぱりもらわなければならない。マネタイズ。
 たとえば、絵を描く人がお金ないと絵の具買えないからね。僕芸大目指したんですけど、あれ、本当にお金かかるんですよね。
 で、これはいろんなもらい方があるんです。それをプロフィットモデルと言うんですが、これを沢山作らなければならない。お金を回すためには会員でもいいし、絵画教室でも撮影会でも似顔絵でもプログラミングでも、あるいはアイコンを作って上げるのもいいし、アプリ開発でもいいし、何でも良いの。自分がアートを描くことの周辺にプロフィットモデルを沢山作ること。

 一番重要なのは、お金っていうものにニュートラルでいること。 
 アーティストっていうのは基本的に自分の主観的な世界に住んでいるんです。僕もアート気質なのでよく分かるけど、それは非常に神聖なものなんですね。だからアートではなくてプロダクトの世界、言語化できる客観の世界が嫌いなんですよね。体育会系と文化系の戦いってかんじですね。リア充と非リアみたいな。分かれちゃってるんですよね。その「嫌悪感」というようなものに対して心の中で克服しなきゃならない。僕たちはカラダを持って生まれている以上、数字という最終言語をもって、自分の世界じゃない世界とコミュニケーションしなければならない。
 開き直りですかね。割り切りかな。これが3つ目。



お金儲けは才能か?


モトカ:
 さて、「価値」と「価格」とは必ずしも一致しないことが往々にしてあります。どのように説明できるでしょうか?


山口:
 「価値」と「価格」っていうのは、本質的に全くパラダイムが違う世界にあるんです。「価値」は個別・固有の瞬間美であって、決して言語化できないものなんです。
 だから「価値」と「価格」が一致することは無いと僕は思います。ま、瞬間的に一致することはあるけれど。
 

モトカ:
 とすると、「価格」とは何に対して設定しているのでしょう?


山口:
 「価格」はニーズの引力です。
 昔ラジオで福山雅治さんが言っていたんです。「成功するにはどうしたらいいですか?」「波に乗ることです」なるほどねー、と。 
 これは経営能力があるとかではなくて、社会・顧客の求めているものに対して主観を排除して淡々と客観的にやること。これが、お金を稼ぐ時には必要なんだと思います。

  

モトカ:
 「引力」ですかw
 やっぱり何らかの隠然たる「力」が存在しますよね。私のボキャブラリーで言うなら「呪力」というような力学。ピカソにしても、そういう魔術的な力で自分を演出したように思うんです。


山口:
 僕は学歴とか役に立たないと思っていて、ストリート・スマートと言うんですけれども現場で生きて行く力というのが大事で、やっぱり直感でそれをする人がいますよね。どういう方向に引力・重力が働いているかを良いタイミングで見抜いて、良い感じで控えている人。
 

モトカ:
 それは才能なのでしょうか? 


山口:
 才能と言うかは分からないけれども、「知覚力」と「効率的に遂行する力」の二つだと思っています。 
 どこにどういう気が溜まっているかを知覚する能力。これに関しては謙虚さと好奇心を持っていると磨かれるセンスだと思う。要するにオープンマインドってことだと思うけど、天性のものじゃなくて技術だと僕は思いますよ。
 ステップ・バイ・ステップで透明度を増して我を落とす。 結局は「自分とは何か?」っていうことの定義を少しづつ変えていくことなんだよね。そうして世界に関しての感度を増していく。
 95%の人は、自分が考えた結果が溜まった「記憶の結晶体」のことを自分だと思っているんです。そこにトラウマとかが溜まっていたりする。


リエ:
 記憶の結晶体...。


山口:
 「今、辛いな」とか「腹減ったー」っていう状態を自分だと思っている。でもね、それは違うんですよ。そうじゃなくて、考えること、感じることをやっている主体がいるということにどこかで気がつくんです。


リエ:
 主体がいるんだと...?


山口:
 その主体が感じた結果が、「腹減った」とか「気分が悪い」とか「俺ってダメだ」とか。それは思考の結果。
 つまり多くの人は、もわもわっとした火山の吹き出し口から出ている煙を自分だと思っている。吹き出している結果をね。だけど本当は吹き出し口を覗いて見ることが大事。映画でいえば、スクリーンじゃなくて映写機を見る。 


モトカ:
 ヨガ的な感覚ですね。主体を客観視して自己を内省すると言うか、今起きている出来事をありのまま感じきるっていうような。


山口:
 まさにそうですね! 
 僕のかつての上司はいつもニコニコしていて、最終的には出世して社長になるんですけど、彼女は何が違うかというと自分をコントロールできている訳です。自分が辛い時に、自分が辛い状況を俯瞰出来ている訳です。彼女は非常にクレバーな人でしたから、自分に出て来ている感情を認知していて、感情と意識が一体化してないんです。自分の意識や知覚の焦点はもっと裏側にあるから、今自分がどういう風に感じているかを客観的に把握できてるんです。これがすごいなーと思って。 
 それはビジネスマンとして最大の強さだと思う。コミュニケーションしやすいですよね。



「使命」について


モトカ:
 今の話にちょっと繋がるんですけど、自分が置かれている立場や環境において「今やるべきこと」というのは、往々にして「使命」と呼ぶべきものとは微妙にズレることがあります。


山口:
 うーん...。僕は、やることが自然な方を選択するようにしてる。絶対に罪悪感や義務感で動かない!
 なので、それ以外は捨てるw


リエ:
 つまり、開き直るということですか?ww 


山口:
 捨てたとたんに、自然に出てくるものがるんですよ。
 僕もできてないけれども「存在の肯定感」っていのを大切にして、自然な衝動に従っていく。その自然さっていうのは自分の知覚レベルで、それをすることが存在の意図に従うっていう感じなんですけど、これを出来るだけ選択していくのが良いんじゃないかと思っているんです。
 自己俯瞰することによって、感情とか思考のアウトプットが明らかになって客観視できるので、意識が奪われることが無い。意識を奪われて行うよりは、行動しないで自分の意識の焦点を存在の本質の一番近い所においておく。


リエ:
 削ぎ落としていくような感じですか?


山口:
 大きな意思決定だね。
 みんなが罪悪感とか同調欲求とか、ローコンテクストで行動したとするじゃない? そうすると、ハイコンテクストで行動する人が楽なんだよね。要するに社会にフリーライドしている訳、そういう人は。


モトカ:
 俯瞰して見たものはスタティックじゃないってことですね。動的な流れがあって、その潮目にあるものを見ていくことが大切なんでしょうね。 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  #1 SOLID SLIDER / 山下達郎
#2 Bop-Be / Keith Jarrett
#3 Smooth Operator / Sade
#4 The Tea Leaf Prophecy / Herbie Hancock Feat. Joni Mitchell
#5 Caribbean Girl / Mario Basanov
#6 (You are) More Than Paradise / Port Of Notes
#7 Once I Loves / John Tropea
#8 Slippin' Into Darkness/ Marcus Miller
#9 A Thousand Years / Christina Perri
羽ラジ

0 件のコメント:

コメントを投稿