2014/09/30

もしもお金がオーガニックだったら、君は愛をただ愛とだけ交換できるのだ。

先週に引き続き、経済思想家の山口揚平さんをお迎えして羽ラジ的貨幣論をお届けします。

〜 山口揚平さん プロフィール 〜
大手コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業。
経済思想家。起業家。ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社代表取締役。
現在、東京大学大学院生として専門の貨幣論を研究をしながら執筆、大学講師、講演など精力的に活動なさっています。
最近ではロボットによる月面探査に挑戦する、日本初の民間宇宙開発チーム『ハクト』に財務担当として参加。
ますます今後の活動から目が離せない方です。



「お金」はなくなるか?



モトカ:

 これからの「貨幣」はどうなっていくと思われますか?  


山口:
 3つ論点があると思います。 
 1つは、紙のお金とか現物のコインはどうなるのか?これは、無くなっちゃいますよね。
 今もう97%くらいのお金が電子化されていて、SUICAなどの電子マネーでピッとやったりクレジットカードで決済したりしている。そう言う意味で、いわゆるカラダで感知出来る3次元的なお金っていうのは無くなっていきます。だからますますお金に関して観念的になってくる。
 営業系の会社ではモチベーションを上げるために給料袋を渡したりしてますけど、これは結構大きい問題だと思うんです。お金の動きが早くなちゃうから。
 手紙とか電話でビジネスやってた時代と、今の電子メールでやっている時代では、生産性が上がったかと言うと上がってなくて、コミュニケーションコスト、情報のノイズが増えているんです。だからお金の動きが速くなっても幸せにはなれないんですよね。

 2つ目の論点は貨幣は国家を越えるかというのがポイントです。
 お金とは価値と信用を数字にしたものでですけれども、信用の土台っていうのは60年前に金本位制というものからいわゆる中央銀行制度に変わって国家がお金の信用を担保するっていうシステムになっている状態ですが、今はそれが無くなって来ていて、最近は無国籍通貨。ビットコインを中心として楽天ポイントとかイオンやTSUTAYAのポイントとか膨大なものが出て来ている。「ブロックチェーン型コイン」と言って、信用の土台が非常に堅固なセキュリティーがありますよということで価値と信用を担保している。これは国家を越えた企業体が発行している。多国籍企業が発行する貨幣の方が国家よりも強くなると、貨幣システムだけじゃなくて僕らの文化とか社会的価値観とか、あるいはヒエラルキーとかそういうものが全部変わってくる訳です。
 僕らの時代は「ネイションステート/ 国民国家」を中心にあらゆる法律、教育、文化、戦争の土台、宗教の土台が作られて来た訳だけど、何処の国に住んでいるとか何処の国に所属しているとかってあんまり関係なくなってくるんですよね。これは歴史的、文化的、文脈の問題が有るんだけれど、いずれにしても今21世紀、国民国家というものが波状してきている訳です。

 3つ目は、人類は貨幣を超えるか?っていうテーマです。要は、もう「貨幣」じゃないよねってこと。人類のコミュニケーションツールが貨幣じゃなくなるっていうすごく大きなテーマ。
 さっき言ったように貨幣の本質というのは「数字」です。例えば、インディアンと植民して来たイギリス人達がマンハッタンの土地を100ドルで売りましたとか、その頃からあらゆる民族がコミュニケーションできる「数字」という最強言語を果たして人類は克服するのか。つまり人類は「数字」を使わないでコミュニケーションできるのか?っていうことなんです。 


リエ:
 へー!してみたいですね^^


縦のお金 と 横のお金



モトカ:
 ドゥルーズ・ガタリは「貨幣は税から生まれた」と言っています。つまり、貨幣は交換よりも富を吸い上げることの方に密接に結びついている、と。
 要は信用を担保するものの背景に何があるのかということはとても重要だろうと思うんです。今の通貨は国家権力によって担保されている訳で、それが税から生まれたとするなら、有機経済、交換経済、実態経済がどんなに発展普及したとしところで結局は税金を納めなければいけない。そうした現実的なテーマに対して何かアイデアはございますか? 


山口:
 「税とは何か?」ってことだと思うんです。 
 世界は「縦の世界」と「横の世界」があるんです。共同体の中にヒエラルキーをつくって下からお金や労働力を吸い上げて、上から偉い人がそれを流すことによってインフラを作ったり社会保障をしたりする。これが「縦」の社会システムですよね。
 もう一方で「横の世界」っていうのがあって、ネットワークでみんなが繋がっている。今のインターネットの世界ではそれがとてもフィットしていて、必要なところで必要な資源を手を上げて調達する。「俺のとこ野菜が無い!」って言うと、その人の持っているクレジットやレピュテーションに合わせて野菜が届く。必要な時に横で「アロケーション / 分配」するっていう方法に変わって来ていると言っても間違いありません。クラウドファンディングやスマートグリッドの考え方ですよね。
 税が貨幣の本質だとするならば、それは縦社会において必要なコミュニケーションの在り方だけど、横社会っていうのでは、必ずしもお金じゃなくてもう一つのエネルギーの凝縮言語である「インディビジュアル」にエネルギーを貯めるという方向で社会を作ることも出来ると言えると思うんですよね。 


お金と暴力



モトカ:
 ここは重要なポイントだと思っているのですが、「縦の社会」で私たちは税を払わない自由を持っていない訳です。極論すれば、私たちは国家による合法的な暴力に屈服せざるを得ないということです。こうした「お金の暴力性」に対して、私たちはどう抗えばいいのかというアイデアは必要だと思うんです。 


山口:
 共同体の中では「秩序」というものが常に必要で、「暴力」はそのひとつの手段です。共同体全員の幸福の総数は秩序がある時と無い時と比べると、秩序がある時の方が幸福の総量が多いんじゃないかというところから暴力は正当化されるし、それによって税を取るということが正当化されるっていうことだと思うんですよね。
 アメリカのドルが強いのは軍事力を持っているからです。中国が元を刷れるのは人口を持っているからですよね。貨幣を発行するにはその前提となる何らかのパワーが必要で、貨幣はエネルギーと不可分だいうことは間違いないと思います。
 では暴力とは何か? 秩序とは何か?っていうことです。暴力とは、肉体的あるいは精神的にその人の可能性を破壊していくこと、その人の自由度を奪うことですよね。これは抽象的な考え方としては「エントロピー / 散逸構造」といって物理法則なんですよ。僕らの思考とか概念とか想念とか、物を作りたいとか形にしたい、お金を増やしたい、これは全部エントロピーの話なんです。エントロピーが拡大するのは仕方がないんです。
 エントロピーの逆はネゲントロピー (negentropy)っていうんですが、僕らのカラダがぐちゃぐちゃにならずに生命を維持しているのはネゲントロピーという引き算のパワーが働いているからなんですね。
 何が言いたいかというと、僕らが学ぶべきなのはネゲントロピー、要するにエントロピーという外に広がっていくパワーを減らす、デトックスするという作業を個人がやって行かなければならない。それが、僕らが「数字」を超えるための唯一の解決策だと思っているんです。 


アートはビジネスにならない



モトカ:
 ということは、新しいシステムを構築すること以上に、経済社会を構成する私たち一人一人の意識の転換が求められている? 


山口:
 そうですね。
 非経済なもの、より本質的なものに対する社会的な理解を高めるような社会システム、小さく言えば教育システムだと思いますけど、それ以外のどのような3次元的なエコシステムも何らそれに資するものではないと思っています。
 たとえば、殆どのアートビジネスってプロダクトビジネス、あるいはブランドビジネスであってアートビジネスではないんですよね。アートって言語化できないものだから、複製可能なプロダクトに変換している。その時点で本質は削ぎ落とされているわけ。そういう意味ではリニアモーターを作ろうが量子コンピューターを作ろうがロケットエンジンの開発をして月に行こうが、それは何らエントロピーの減少や世界平和に繋がるものではない。
 本質論として、僕らは知覚のセンスを高めることです。知覚の世界っていうのは当然言語化出来ません。従ってそこでは貨幣経済が通用しないんです。それはもう教育というか啓蒙というかリテラシーだと思っていて、そういうことによって僕らは貨幣を克服していくしかないわけなんです。体験的に知覚して、そこを高めていくことでしかない。日経ビジネスを読んでもエントロピーを拡大する方法しか教えてくれないですよ。
 「プロフェッショナル」っていう言葉は、14世紀に医者と弁護士がその言葉の意味を占めることになったんだけど、もともと情報の非対称性があって患者が知らなくての自分は知っているとお金がいくらでもとれてしまうんです。それをお金に換えてはいけませんよ、ということで職業倫理が生まれた。彼らが何をして来たかって言うと、エゴデトックス。儲けたい欲望を自分の知覚のなかで解消していくことをやらされる。これはあらゆるプロフェッショナルに言えることなんですよね。師匠に学ぶ訳ですよ。だから仕事には師匠がいて弟子がいる、メンターシステムっていうのが必要なんですよ。


モトカ:
 今おっしゃったような縦のシステムと横のシステムは、両立するのでしょうか? それとも横のシステムが縦のシステムを凌駕して行くべきだとお考えでしょうか?


山口:
 うーーん。。。まぁ感覚でいうと、オルタナティブというものはクリティカルマスを超えないんですよ。18%を超えない。だから全体の83%以上は貨幣経済がこれからも続くし、人類はそういった意味で「数字」を完全には克服しない。「数字」が無くなることは無いということですね。従って貨幣が無くなることは無い。貨幣を何処が発行するかわからないけれど、人類が最強言語であるお金を使い続けることは間違いないです。


人はネットワークで生きる



モトカ:
 ということは、幾つかの経済システムが並列しながら展開していくような社会をイメージなさっている? 


山口:
 そうですね。
 ただ、いずれどこかの時点で幸福度調査をしたくって。いわゆる貨幣経済と非貨幣経済の幸福度とか自殺率を客観的に計って、要するに有機野菜がカラダに良いように非貨幣経済がカラダに良いということを検証するっていうが僕の研究のテーマですね。 


モトカ:
 幸福って多様ですから、それをどうデザインするかは難しそうです。


山口:
 確かに、幸福は難しいですねw
 まぁただ今って自殺とか多いですけど、殆どの死因、福島の被災地で避難所の中で病気で死ぬんじゃないんですよ。人は病気とかタバコとか酒とかで死ぬんじゃなくてネットワークで死ぬんですよ。要するに孤独で死ぬんです。だから翻っていかに有機性が幸福に影響を与えているのかが分かっていますよね。


リエ:
 やっぱり、ふわふわしながら農業とかコミュニティーの中で助け合いの経済を回そうという若者達にとって、お金の実態を教えてくれるって大事だとおもうんですよ。お金にはそんな本質があったんだって分かれば、またM&Aに進む人がいるかもしれない、横の繫がりの方をやっぱりやりたいと思う人はやったらいい。ニュートラルになりたいですね。


山口:
 二つ必要ですよね。
 本当に僕が提案したいのは「時間主義」と言っているんですけれど、最終的には時間が通貨になると思っているんです。時間って有限ですから時間効率を上げるしかしかない。ということは自分の時間価値を上げる方が良い。それだけは計算した方が良いと思う。クレジットのかけ算なんです。
 もう1つは健康投資。これにはお金がかかる。本質的にプロフェッショナルに生きている人って、お金が有るか無いかでやることは変わらないんです、タクシーに乗るぐらいなんですw
 自分がコントロール出来る時間がどれだけあるかっていうことが今の時代は一番必要なんです。そのあとの時間を横社会に振り分ける。それがコツかなって思っています。



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  #1 Money Changes Everything / Cyndi Lauper featuring Adam Lazzara

#2 Money In the Meter / Bing Ji Ling
#3 It's Nice to Have Money / DJ Smash
#4 You Never Give Me Your Money / The Beatles
#5 Money In The Rhymebook / Think Twice feat. Coates
#6 Fuck Money / Dela
#7 When Your Life Was Low / Joe Sample feat. Lalah Hathaway



羽ラジ

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